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第1部 「 トルゥ・サーナの影 」 へ ホーム

■ 夜の国へようこそ

神々からも、そして自然の法則からも見放された禁断の大地、ズィルヴァニア。かつてエンパイアを恐怖に陥れた邪悪なる吸血鬼伯爵、フォン・カーシュタイン一族が治めた悪名高き地である。上古の森と同じように、ズィルヴァニアにも 「 森 」 と呼ばれるものは広がっているが、そこに生える木々は半ば腐っているか、あるいはすでに立ち枯れてひさしいものばかりだ。

エンパイアの一般的な居住地にくらべてもなお、ズィルヴァニアの町や村は、それぞれが遠く離れて孤立している。そこに暮らすのは、よそ者をいぶかしんで信じようとしない、暗くせまい心の農民ばかり。彼らはやせ衰えた不毛の地に生えてくる作物を手当たり次第に引っこ抜きながら、血縁を持つ家同士で、こじんまりとした共同体を作って暮らしている。そして自分たちの粗末なあばら家から、絶対に離れようとはしないのだ。何故か? 彼らは知っているからだ …… ズィルヴァニアの荒野に、不死なる者たちがひそんでいることを。

かくも暗きズィルヴァニアの大地を、人間、ドワーフ、エルフの光の同盟が行軍してゆく。その目的は一つ …… ズィルヴァニア全土で吸血鬼伯爵復活の手がかりを集めつつ、フォン・カーシュタイン一族の居城であったドラッケンホフ城の廃墟を目指すことだ。だが、行進する彼らの上空には無数の吸血コウモリたちが飛び交い、暗雲がたちこめている。この禁断の地に足を踏み入れてからすでに一週間近く、彼らは一度たりとも太陽の光を目にしてはいない。最果て山脈から吹き降ろす冷気と、川から立ち上る冷たく湿った霧が、兵士たちの勇気と体力を少しずつなえさせてゆく。

生者よ、絶望せよ。光の同盟の固い決意と努力をあざ笑うかのように、ズィルヴァニアの地に点在する塔の高みからは、不吉な赤い視線がそそがれている。

夜の国へようこそ。君たちが生きて帰ることはない。